永遠に推したい謎看板と愛すべき親父たち。
- 2019.12.13
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私はライターである。あるときは屈強な農夫たちと蓮根畑で語らったり、またあるときは大都会TOKYOをレンタサイクルで走り回り「取材いいすか〜!!!」と突撃取材をかましたりしている。あらゆる道を縦横無尽に走り回るのが仕事といっても過言ではない。
すると時折、見逃せない看板に出会う。歴史を感じさせる佇まいだったり燦然と輝くキャッチコピーであったり、見逃せない理由はさまざまだ。例えばこんな看板。
温暖化天草…。
漂う脱力感と問答無用の説得力がたまらない。
ちなみに、この看板は熊本が誇る珍スポットのひとつ『わくわく海中水族館シードーナツ』に掲げられていたものである。同館にはイルカを飼育している生簀プールがあるのだが、飼育員も不在がちで暇を持て余したイルカが「遊んでくれよ」とボールをブン投げてきたりするフリーダムなプールだ。そして傍らには、これまでに来館者がプールに落下したり携行品を落としたりした際の状況を事細かに記した看板が設置されていたりする。マニア垂涎、謎看板の宝庫である。
前置きが長くなったが、本コラムでは上記のような魅力あふれる看板をつらつらと紹介してゆきたい。折角なので、私がこれまでに出会った中でもお気に入りの看板ベスト5を上げていこう。
まずはこちら。
ネーミングセンスの勝利。漢字で記された「馬鹿盛」のインパクトが素晴らしい。「馬鹿盛ってどんだけ?」という期待感が集客に一役買っていることは間違いないだろう。それに令和のご時世(例え良い意味でも)屋号に「BAKA」とつけることは憚られる。昭和ならではの長閑で寛容な表現には、ときめきを禁じえない。
続いてはこちら。
色遣いから内容まで、非の打ち所のない怪しさにしびれる。何といっても「人事百般何でも相談の宮」なのだ。そんな同看板、最大の注目ポイントは…。
何者かがジッと見つめている! シリアスな人生相談の看板にあって、このユーモラスな表情が唯一の癒やしを与えてくれる。さては神様的な存在か?
神様看板の横には、具体的なお悩みを列挙したサブ看板もある。筆者は冒頭の「運悪く厄などはないが、やる気気迫パワーがない」でいきなりドキッとしてしまった。幾つたずねても初穂料2,000円は安い。守護霊と前世も知りたすぎる。もし好奇心が募りすぎて耐えられなくなった場合は、別所にて連載しているこちらのコラムにてレポートしたいと思う。続報(あれば)に乞うご期待。
さて、いよいよベスト3に突入しよう。
「ヒノキの香りのするおうち」というキャッチコピーと国籍不明美女のミスマッチに、脳がバグを起こしたかと疑いたくなる。なぜ彼女をモデルに起用したのか? このポーズとヒノキの家には一体どのような関係性が? 謎を解き明かすべく、こちらの会社の方にインタビューしようと社内を覗き込んだところ、皆様「スン…」という効果音が聞こえてくるほど真剣にお仕事をなさっていたため涙をのんで断念した。
気を取り直して2位にいこう。何を隠そう筆者の行きつけ、しかも大学の大先輩が営んでいるサンドイッチ店である。正直まったく映えはしないが、そのぶん真っ当で素直な味わいのサンドイッチは不思議な中毒性があって美味しい。看板もごく普通で「サンド一筋20年」の文句も、そこそこの老舗感を漂わせて良い感じだ。だがしかし。
側面に回った途端、頭上に???が浮かぶ。「孫も大好き」??? 孫もってことは、おじいちゃんも? おばあちゃんも? お父さんも? お母さんも? おじさんは? つまり「大人も子供も、おねーさんも。by 糸井重里」的な意味なのだろうか? もしくは、店主自身の孫がサンドイッチ大好きっ子なのか? こちらは行きつけの店ということもあり、思い切って店主に聞いてみた。なんで孫にフィーチャーしたんですか?
photo by yoshiko otsuka
「そりゃお前さ、サンドイッチなんて、自分が食べるとしたら1個とか2個が限度だろ? そんなにいっぱい買わないわけ。でも、孫にお土産にしてやろうかなと思えば、5 個くらい一気に買うのが人情なのよ。だから孫! 断然、孫だね!」
脳内に「なんで〜こんな〜に〜可愛いの〜か〜よ〜」というおなじみのメロディが再生される。
やけに自信に満ちあふれた返答だが、分かったような、分からないような…。狐につままれたような気分でツナサンドを買い、お礼を言って店を後にした。確かに「子どもも大好き!」より「孫も大好き!」の方が、グッとくる気がしないでもない(?)
そしてついに1位 。こちらをご覧いただきたい。
この、遠くに見える黄色い看板。
遠すぎてよく見えないので、ちょっと近づいてみよう。
店舗名と電話番号が明るいイエローに映える、王道の看板だ。え? 確かに分かりやすいけど、これが1位?と思ったあなたは鋭い。もう少し近づいてみよう。
四隅に何か書いてある…。
…超小さくありがとうって書いてある!
気づいた瞬間、なぜか冷たい汗が背中を伝った。これは何なのだ、もしかして見つけてしまった人間は死ぬ的なやつなのだろうか(都市伝説好きの妄想)
怖がりながらも写真をバシバシ撮っていると、事務所と思われるコンテナからおっちゃんが出てきた。しまった、無断で写真を撮っていることを咎められるかもしれない。「すみません、この看板が気になって思わず写真を撮ってしまいました」と急いで謝ったところ
「いいよいいよ、お姉ちゃん目の付けどころがいいな。これはな、前に務めてたニッ○ン時代から今日まで、お世話になりましたね、ありがとうねっていう気持ちを込めて造った看板なのよ」
なんと、単純に心からの感謝を伝えるためのものだった。都市伝説みたいとかいって申し訳なかった。
「良い看板だろ?」「良い看板ですね」寒空の下、しばし看板を見つめるふたり。思いついて「お父さん、看板と一緒に私のコラムに出てくれませんか?」とリクエストしてみたが「俺がここにいるってバレちゃ困るからよ。でもありがとな」と丁重に断られた。人にはいろいろな過去があるものだ。
さて、看板愛好家の筆者にとって忘れることのできない謎看板ベスト5、お楽しみいただけただろうか。珠玉の看板の裏側には、ナイスな親父と彼ら独自のこだわりがあることもまた、覚えておいていただきたい。
そして、我こそは誰にも負けない謎看板を造りたいと情熱を燃やしているあなたは、ぜひ看板づくりのエキスパートEIBANに相談してみてほしい。